21
奥山雄大 さん (国立科学博物館植物研究部・筑波実験植物園)
生態的種分化のモデルとしてのチャルメルソウ類
-フィールドからゲノムまで-

abstract

植物の生態的種分化がどのような状況で引き起こされ、今日の生活史形質の多様性を生み出したかを理解する上で、進化生態学と遺伝学の両面から特定の生物群 の自然史に迫る手法は極めて有用である。13種の日本固有種と1種の台湾固有種からなり、日本列島で顕著な種分化を遂げた特異な系統群であるチャルメルソ ウ属チャルメルソウ節(section Asimitellaria)は、このような研究アプローチに最適なモデルである。本発表ではま ず、このチャルメルソウの仲間が送粉者の転換による種分化を繰り返しており、その直接の引き金が特定の花香成分の変化であること、またその原因遺伝子が少 数であることを示す。さらに、同所的に生育し、繁殖に関わる形質に大きな違いが見られる近縁な2種、コチャルメルソウとミカワチャルメルソウの雑種F2世 代を用いた遺伝学的解析から、これら種間の形質分化の遺伝基盤について得られつつある様々な知見を紹介する。最後にこれらの知見からフィールド生態学に立 ち戻り、「種分化の瞬間」をいかにして合理的に復元するかについて展望を述べたい。

日 時 | 2013年 1月17日(金) 15:00~
場 所 | 東北大学 北青葉山(理薬)キャンパス 理学部合同A棟 2F205 第3講義室

ポスター



20
鈴木美季 さん (筑波大学 生命環境科学研究)
正直は最善?嘘も方便?
-花色変化「する」植物と「しない」近縁種の対照的な送粉戦略

abstract

植物と動物の相互作用は、花の形質進化に大きく影響します。たとえば、花色変化―花が散るまえにその色を劇的に変える現象―は、送粉動物をうまく利用するための適応形質であるといわれてきました。しかし一方で、花色変化しない植物もたくさんいるのはなぜでしょうか。この問いに答えるために、演者はハコネウツギ(花全体が白から赤紫に変化:変化型)とその近縁種タニウツギ(花はピンクのまま一定:不変型)のあいだで、花形質のくみ合わせ・送粉昆虫の行動パターン・送受粉の結果を比較してきました。まず、植物園における調査から、いずれの種も蜜などの報酬をへらした古い花を維持することがわかりました。しかし、変化型は古い花の色を変えて報酬量を昆虫に教えていた一方で、不変型は教えていませんでした。さらに、変化型は報酬のありかをしめすことで、マルハナバチのような学習能力がたかい昆虫を誘引していることが示唆されました。それでは、対照的な送粉戦略をとる2つの植物は、それぞれどのような環境下で繁殖を成功させてきたのでしょうか?この問題をとく手がかりを得るために、昨年から変化型と不変型の自生地に出向いて昆虫相などの調査をおこなってきました。セミナーでは、こうした最新の研究成果も紹介します。そして、花色変化パターンの種間差を参考にして、なぜ生き物には多種多様な戦略がみられるのかという点について議論をしたいと思います。

日 時 | 2013年12月20日(金) 15:00~
場 所 |  東北大学 北青葉山(理薬)キャンパス 理学研究科合同A棟 2F203 第1講義室

ポスター



19
大石康博 さん (理研CDB形態進化研究グループ)
ヌタウナギの頭部発生から脊椎動物の頭部形態の進化を読む

abstract

現生するヌタウナギとヤツメウナギは、顎をもたず、鼻の穴が1つしかない不気味な脊椎動物である。その醜悪な風貌から、ヌタウナギはHagfish『醜い婆魚』と名づけられた。最近の分子的解析によると、両者は脊椎動物の最も原始的な系統(円口類)を構成することが支持されている。しかし形態学的には、ヌタウナギは全脊椎動物(ヤツメウナギを含む)の祖先的な形質をもつと見なされてきた。この初期脊椎動物の進化史の理解を阻む、分子と形態の解釈の矛盾はどのように解消できるだろう?
本セミナーでは、比較発生学的なアプローチを紹介したい。まず100年間謎に包まれてきた、ヌタウナギ胚の頭部構造の発生シリーズを、組織学・3D復元により解析し、ヤツメウナギおよび顎口類(顎をもつ動物)と比較した。この解析は、ヌタウナギとヤツメウナギは、顎口類とは異なる、「汎円口類パターン」を共有すること。そして両者に特異的な構造は、発生の後期に二次的な変形より生じることを明らかにした。この発生学的な知見は、分子系統学と整合的であり、形態学には新たな解釈を与える。最後に、古生代の化石魚類の知見をまじえ、今回発見した「汎円口類パターン」は、現生するすべての脊椎動物の祖先に共有されていた可能性について論じたい。

日 時 | 2013年10月11日(金) 16:30~
場 所 | 東北大学 北青葉山キャンパス 生物学系研究棟別館 1F 共通講義室

ポスター



18
土松隆志 さん (グレゴール・メンデル研究所)
アブラナ科植物における自殖の起源とその進化的帰結

abstract

倍数性,花の色,無融合生殖など,被子植物において平行的に進化した形質は数多くありますが,自家受精(自殖)の進化ほど繰り返し起きたものは他にないと言われています.近親交配の一種である自殖は,近交弱勢を伴うものの,遺伝子の伝達効率の良さや一個体でも子孫を残せるという繁殖保証の有利さから,適応的な性質であると考えられてきました.演者らは,モデル生物シロイヌナズナを含む複数のアブラナ科植物を用いて, (1)自殖の平行進化を担う突然変異にみられる普遍的な性質,(2)自殖の進化した時期や環境,(3)自殖の進化がゲノムの性質等さまざまな形質に与える影響について研究を行ってきました.本講演では,これらの一連の研究の紹介と,シロイヌナズナにおける大規模な集団ゲノムのデータ(「1001ゲノム」)をもちいた今後の研究の展望をお話したいと思います

日 時 | 2013年9月6日(金) 16:00~
場 所 | 東北大学 北青葉山キャンパス 生物学系研究棟別館 1F 共通講義室

ポスター



17
寺井洋平 さん (総合研究大学院大学 先導科学研究科 生命共同体進化学専攻)
シクリッドを用いた適応と種分化の研究

abstract

本セミナーでは私がこれまで行ってきたカワスズメ科魚類(シクリッド)を用いた適応と種分化の研究を紹介したいと思います。アフリカ大陸の三大湖には数百種にもおよぶそれぞれの湖に固有のシクリッドが生息しており、これらの種は適応放散により進化してきたと考えられています。そのため、適応と種分化の研究の対象生物として注目されてきました。本研究では始めにタンガニイカ湖とヴィクトリア湖における深さや透明度による光環境の変化と視覚に関わるオプシン遺伝子の適応について説明します。次にヴィクトリア湖における視覚の適応が婚姻色の進化を起こし、それが種分化につながったことを話します。これらの内容に加えて、この種分化の機構がヴィクトリア湖のシクリッドの種分化に共通の役割を果たしてきたこと、他の透明度が低い湖でも並行的に視覚の多様化が起こっていることなどを話し、最後に現在進行中のシクリッドゲノム全体からの種分化関連遺伝子の探索を紹介しようと思います。

日 時 | 2013年6月26日(金) 17:00~
場 所 | 東北大学 北青葉山キャンパス 理学部生物学系研究棟 1F 大会議室
共 催 | 生態適応センター 第85回生態適応セミナー




16
Mark Ravinet さん (Queen’s University Belfast, UK ; National Institute of Genetics, Mishima Japan)

Ecological speciation and adaptive radiation in Japanese sticklebacks

abstract

When species colonize new environments, they often undergo remarkable diversification, occupying unexploited niches and evolving remarkable adaptive phenotypic variation. Adaptive radiations driven by divergent natural selection between habitats can therefore play a major role in the evolution of biodiversity. Yet why is it that some species are more prone to adaptive radiation than others? Over the last 10 years, the stickleback species complex has become an evolutionary ‘supermodel’ for the study of rapid phenotypic adaptation and speciation. Two highly divergent Japanese stickleback species occur across the Japanese archipelago. The Japan Sea and Pacific Ocean forms are unique in that they are the only known example of an anadromous species pair and furthermore they experience near-complete reproductive isolation. Curiously, only one lineage, the Pacific Ocean, is able to colonize freshwater and therefore diversify phenotypically. The Japanese stickleback system therefore provides an excellent opportunity to study the role that ecological divergence has played in shaping both speciation and the extent of adaptive radiation.


川津 一隆 さん (龍谷大学理工学部)
これまでと違う視点で性の維持を考えよう:性選択,性的対立,繁殖干渉

abstract

進化生物学最大の謎と言われる「性の維持」問題の解決を困難にする“性の2倍のコスト”の存在は,同時に配偶を巡るオス間の競争を強め,性選択や性的対立といった性特異的な選択圧を生み出すことにもつながる.しかしながら,進化生物学の他分野では研究が盛んに行われているにもかかわらず,遺伝学的側面が強い従来の研究ではこれらの性特異的選択圧と性の維持との関係性についてはあまり議論されてこなかった. このような背景の下で,私は性特異的選択圧の視点に着目し,異なる生態的スケールに合わせた(数理・実証両面の)手法を用いることで種内と種間レベルという階層が異なる二つの性の維持問題に取り組んできた.それらの結果は,性特異的選択圧に着目することで種内・種間レベルの性の維持問題が解決できるだけでなく,単為生殖種の進化起源や地理的単為生殖種の分布の説明といった性にかかわる諸問題の説明にもつながることを示唆している.そこで今回の講演では,それら一連の研究成果を紹介するとともに今後の研究展望についても(できれば)議論したい.

日 時 | 2013年5月17日(金) 15:00~
場 所 | 東北大学 北青葉山(理薬)キャンパス 生物学系研究棟別館 共通講義室
共 催 | 生態適応センター 第84回生態適応セミナー

ポスター



15
深澤 遊 さん (東北大学大学院農学研究科)
枯死木をめぐる生物間相互作用

abstract

倒木や立枯れなどの枯死木は多様な生物の生息場所として森林生態系の種多様性の維持に重要な役割を果たしている。枯死木に形成される多様な生物群集は、複雑な生物間相互作用のネットワークを構成することにより、森林生態系の安定性の維持にも重要な役割を果たしていることが予想されるが、枯死木をめぐる生物種間の相互作用のネットワークについてはほとんど分かっていない。本発表では枯死木分解の主役である菌類の材分解機能に注目し、これが枯死木に生息する他の生物の群集に与える影響を、アカマツの倒木を材料として調査した結果を紹介する。倒木上の変形菌・コケ・樹木実生の群集構造は、菌類の材分解機能を反映した材の「腐朽型」の影響を受けており、菌類が枯死木の分解を介して間接的に枯死木に生息する生物の群集構造に影響を与えていることが示唆された。発表では、菌類から腐朽型、変形菌、コケ、樹木実生へと至る相互作用の流れについても考えたい。

日 時 | 2013年4月11日(金) 16:00~
場 所 | 東北大学 北青葉山キャンパス 理学部生物学系研究棟 1F大会議室

ポスター



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池田啓 さん (国立科学博物館)
系統地理に始まりどこへ行く
-高山植物における分布分断の歴史と光受容体を介した適応進化-

abstract

遺伝的多様性は生物多様性の基幹を成す要素である。系統地理(Phylogeography)は遺伝的多様性の地理的な広がりを明らかにすることで、種の多様性が生み出される背景に迫る研究アプローチである。本講演では、大きく3つの観点から高山植物の系統地理の研究を紹介する。まず初めに、(1)日本列島の高山植物における気候変動(氷期‐間氷期)と関連した分布形成の歴史に関する研究を挙げる。特に、中部地方の高山植物が持つ独自な遺伝的組成に焦点を当てた話をする。続いて、(2)系統地理の研究から地域適応の遺伝的基盤を探る試みとして、植物の光受容体であるフィトクロム(PHYE)が地域間で自然選択を受けて分化していることを見いだした例を挙げる。最後に、(3)周北極地域を中心に北半球の寒帯~高山帯に広く分布する周北極‐高山植物の進化に関する研究を取り上げる。地球上に最も広範囲に分布するこれらの植物の仲間がどのように幅広い環境へと適応しているのかを探る試みの話をしたい。これらの3点の話題を通じて、系統地理が生物多様性の研究に対して与える展開を議論したい。

日 時 | 2013年2月8日(金) 16:30~
場 所 | 東北大学 北青葉山キャンパス 生物学系研究棟別館 生物・地学共通講義室

ポスター



13
石川麻乃 さん (国立遺伝学研究所)
イトヨにおける表現型可塑性の進化とその遺伝基盤

abstract

生物は、外的刺激に応じて適切に形や行動、生理状態を変えることで、変動し続ける環境に対応しています。このように同じ遺伝的背景から環境条件に応じて異なる表現型が生み出される現象は『表現型可塑性』と呼ばれ、多くの生物が示す性質として知られてきました。さらに、近年ではこの表現型可塑性が生物の多様な形質の進化に重要な役割を果たすと示唆され、注目を集めています。しかし、さまざまな生物種で表現型可塑性の生理制御機構が明らかになる一方、「表現型可塑性の獲得や喪失が、そもそもどのような遺伝的変化によって進化するのか」という根本的な問題は全く明らかにされていません。そこで私は、近年進化学のモデル生物としての地位を確立しつつあるイトヨや近縁のトゲウオ種を用いて、この問題に取り組んでいます。
イトヨが進化学のモデル生物として注目されている理由は、世界各地で見られるイトヨ集団の多様性にあります。この魚では、200万年という比較的短い間に、川と海とを回遊する祖先集団が河川や湖などの淡水域に進出し、それぞれの場所で多様な進化を遂げています。また、近年イトヨのゲノム解読が終了し、トランスジェニック作成技術などが確立されたことから、野生の生物における表現型の多様性の分子機構を明らかにする格好の研究対象であると考えられています。私は、彼らが示す多様な形質の中でも、日長応答性や海水/淡水適応能など、周囲の環境に応答して発現する形質:表現型可塑性の差異に注目し、現在研究を進めています。

本セミナーでは、これまで分かってきたイトヨの表現型可塑性の平行進化とその分子遺伝基盤についてお話したいと思います。

日 時 | 2012年11月23日(金) 16:00~
場 所 | 東北大学 北青葉山キャンパス 理学部生物学系研究棟 1F 大会議室

ポスター



12
栗田喜久 さん (OIMB, University of Oregon)
2枚の貝殻の作り方 -胚発生からみる軟体動物の形態進化-

abstract

軟体動物の多様な形態はおおくの進化生物学者の興味を惹きつけている.いっぽうで,その形態進化を引き起こした至近要因はあまりわかっていない.
本発表では,巻貝やカサガイなどからなる腹足類の「からだのねじれ」,二枚貝の「2枚の殻」,その2枚の殻を機能させるために必須な「閉殻筋」という3つの新奇形質に着目し,新奇形質形成に関する発生学的基盤についての研究成果を報告する.またこの研究から得られた発生学的な情報を化石記録と照らしあわすことでみえてきた,形態進化の原因となったであろう発生の変更が生じた順番(進化の順番)についても考察する.最後に,本研究を通じて浮かびあがってきた軟体動物の形態進化の特徴についても論じたい.

日 時 | 2012年11月9日(金) 16:00~
場 所 | 東北大学 北青葉山キャンパス 理学部生物学系研究棟 1F 大会議室

ポスター



11
長田直樹 さん (国立遺伝学研究所 進化遺伝研究部門)
ゲノムの分岐パターンから探る,歴史,種分化,適応

abstract

DNAから得られる塩基配列は生物の進化を探るうえで非常に有益な情報を持っている.近年の塩基配列技術の進歩により,これまでにない量の塩基配列情報が手に入るようになったが,今わたしたちに必要とされていることは,これらの大量の情報をどのように利用するかという方法論と,それを用いて答えることのできる生物学的な質問である.
種間,種内の遺伝子(DNA断片)はほとんどの場合共通の祖先からの分岐によって派生したものであり,二倍体の同一個体から取った二つの対立遺伝子配列も,異なる種から取った二つの遺伝子配列も過去の一つの祖先配列にさかのぼることができる.これらの過程は集団遺伝学ではコアレセント(合祖)理論として非常によく研究されているものである.これらの理論を用いてゲノムから得られた多数の(遺伝子)座位のコアレセント様式を研究することによって,生物集団がどのような歴史を経てきたのか,どのような遺伝子にどのような適応選択が働いたのか,二つの種はどのように分かれてきたのかなど,多くのことを推測することができる.本講演では霊長類や植物を材料にした発表者の過去の研究結果を交えながら,データの解析方法や理論の解説を行いたい.

日 時 | 2012年10月19日(金) 16:00~
場 所 | 東北大学 北青葉山キャンパス 理学部生物学系研究棟 1F 大会議室

ポスター



10
Richard P. Shefferson さん (Assistant professor, Odum School of Ecology, University of Georgia, Athens, Georgia, USA)

The evolutionary ecology of long-lived perennials: reproduction and inconsistent sprouting in a demographic context

abstract

Much of our understanding of the evolution of lifespan stems from research on its evolution in animals. However, herbaceous plants break some of the rules of Hamiltonian senescence, particularly due to their indeterminate growth and modularity, which make their innate demographies more size-based than age-based. In this seminar, I will present my research on evolutionary demography in herbaceous perennials and some of the more unusual aspects of plant life histories, relying on recent work with short-lived perennials such as Plantago lanceolata and long-lived perennials such as Cypripedium parviflorum. Most notably, I will assess the evolutionary context and impacts of iteroparity and inconsistent sprouting, and show the relationships between reproductive schedules, sprouting schedules, life history costs, and the evolution of long lifespan. Along the way, I will explore four major research projects, and assess the impacts of complex life histories on the evolution of populations via analysis of projected life history costs and growth rates, and via modeling of evolutionarily stable strategies.


日 時 | 2012年7月13日(金) 16:00〜
場 所 | 東北大学 北青葉山キャンパス 理学部 生物・地学共通講義室

ポスター



9
立木佑弥 さん (九州大学 システム生命科学府 数理生物学研究室)
樹木豊凶(マスティング)進化に与える実生バンクの役割、有限集団サイズの効果

abstract

 多くの樹木は毎年繁殖を行う訳ではなく、数年に一回の同調した繁殖パターンをみせる(マスティング)。この現象を説明する資源収支モデルによると、一回の繁殖に対する貯蔵資源の投資量が大きいときに間欠的繁殖が引き起こされ、逆に小さいときには毎年繁殖が可能になる。本講演では、樹木の繁殖への資源投資に関わる係数を進化形質とし、アダプティブダイナミクスの枠組みで進化条件の議論を行う。樹木の間欠的な繁殖は、繁殖を行なわない年に子孫を残せない事が大きな不利となるため、この点を補償する何らかのメカニズムが進化条件として必要であると考えられる。そこで実生バンク(幼い樹木の集団)を考慮し、これが間欠的繁殖の進化に貢献する事を示す。実生が耐陰性(光が届かない林床でも長生きする性質)をもって長生きするときには、子孫が長年にわたってギャップ獲得競争に参加するので、間欠的繁殖の不利を補償する。
 このモデルにおいて、実生の生存率に対する進化形質の依存性を調べると、実生生存率が小さいときには、毎年繁殖をおこなうが、ある生存率に達すると、毎年繁殖の進化平衡点が消失し、進化の最終状態がマスティングへと離散的に変化することがわかった(進化的ジャンプ)。また、個木ごとの生存、枯死、繁殖を追跡する個体ベースモデルを用いて同様の解析を行ったところ、集団サイズの有限性によって引き起こされる遺伝的浮動(確率性)によって、上記の解析よりも、より小さな実生生存率で、マスティングが進化しうる事がわかった。この結果は進化生態学において、集団の有限性を考慮する事の重要性を示唆している


片山歩美 さん (九州大学 演習林)
ボルネオ島熱帯雨林における土壌呼吸と炭素配分

abstract

 森林の炭素循環、つまり、森林からどのくらいの二酸化炭素が吸収・放出されているかということは、地球上の炭素循環を考えるうえで、必要不可欠な情報である。森林から放出される50-95%もの量を占めるのが、土壌から放出される二酸化炭素(土壌呼吸)である。特に年間を通して気温と降水量に恵まれた熱帯雨林では、土壌呼吸量が非常に大きく、また、空間的な変動が大きいことが報告されているが、熱帯雨林においてその要因を明らかにした研究例は少ない。そこで、本発表では、ボルネオ島熱帯雨林における土壌呼吸の空間変動要因についての研究を紹介する。本試験地では、世界最大級の土壌呼吸量を観測した。また、土壌呼吸速度の空間変動も既存の研究よりも大きいことが明らかとなり、巨大高木の位置と密接な関係があることを発見した。「樹木の位置が土壌呼吸速度に影響を与える」とはどういうことなのか、森林全体の炭素の利用の仕方(炭素配分)という視点から、その意味を考察する。


日 時 | 2012年5月28日(金) 15:00〜
場 所 | 東北大学 北青葉山キャンパス 理学部 生物・地学共通講義

ポスター




8
Menno Schilthuizen さん (NCB Naturalis and University of Groningen, the Netherlands)

The evolution of a "brass band": the filling of shell shape morphospace in the Diplommatinidae micro-snails of Southeast Asia

abstract

On the limestone hills of Southeast Asia, a hidden evolutionary play is played out. The miniature diplommatinid land snails that live here among the moss and lichen are "microjewels" of unsurpassed beauty: their shell shapes are among the most bizarre found in terrestrial Gastropoda. Using a combination of field studies, molecular phylogenetics, 3D-imaging, ontogenetics, and transcriptomics, my students Liew Thor-Seng and Annebelle Kok and myself are trying to unravel how and why these snails have filled such an expanse of morphospace.


日 時 | 2012年5月18日(金) 15:00〜
場 所 | 東北大学 北青葉山キャンパス 理学部 生物・地学共通講義室

ポスター



7
宮澤清太 さん (阪大・院・生命機能)
動物の模様を「混ぜる」とどうなるか?

abstract

 斑点、シマシマ、網目などなど、動物の体表にはさまざまなパターンが見られます。多彩なバリエーションは生物多様性の見本と言えますが、これらの模様を「混ぜる」とどうなるでしょう? 異なる模様をもつ近縁種間で交雑が生じた場合、交雑個体にはどのような模様パターンが出現するのでしょうか? 本講演では、数理モデルによるシミュレーションと実際の交雑個体に生じた模様パターンとの比較から、模様の「混ぜ合わせ」について考えてみます。さらに、模様パターンの変化が「交雑による種分化」を引き起こす可能性について議論したいと思います。


鈴木誉保 さん (農業生物資源研究所)
蛾・蝶の枯葉に擬態した翅模様にみられる適応的なデザインとボディプラン

abstract

 蛾や蝶の翅の模様は、枯葉、樹皮、苔などの自然物に多様に擬態している。なかでも、葉脈模様までをも模した枯葉擬態がもつ美しさと巧妙さは私達を魅了し続けてきた。しかし、その模様に隠されたうまい仕組みや、擬態模様が生じてきた進化の道筋については、ほとんどわかっていない。
 本セミナーでは、まず枯葉に擬態したヤガ科の蛾であるアカエグリバ(Oraesia excavata)とタテハチョウ科の蝶であるコノハチョウ(Kallima inachus)を用い、模様の定量的な解析からみえてきたモジュールデザインへの収斂について報告する。さらに、比較形態学的なアプローチによって浮かび上がってくる、枯葉模様の進化に隠された一般的なルールについても議論する。時間が許せば、現在進めているカイコ翅模様形成メカニズムの可視化プロジェクトについても簡単に触れたい。


日 時 | 2012年3月30日(金) 15:00〜
場 所 | 東北大学 北青葉山(理薬)キャンパス 理学部生物棟1F 大会議室

ポスター




6
鈴木 紀之 さん(京都大学大学院 農学研究科 昆虫生態学研究室)
テントウムシのニッチ分割と群集生態学における繁殖干渉の意義

abstract

 形質置換などのパターンが種間競争にもとづく考えを支持する一方で、同じニッチに多くの種が共存していることはその概念にうまく一致していません。群集生態学におけるこのような矛盾を、どのように解釈すればよいのでしょうか。私の研究では、従来の資源競争だけではなく、繁殖期における負の相互作用(繁殖干渉)に着目して解決を試みてきました。捕食性テントウムシ近縁2種を用いた研究では、繁殖干渉に優位な種が価値の高い資源を利用し、劣位な種は価値の低い資源に追いやられていることが示唆されました。繁殖干渉は繁殖形質の似た種間で強く生じると考えられるので、近縁種間でのみに見られる排他的なニッチ利用をうまく説明できると思われます。これらの成果をもとに、プランクトンのパラドクス、熱帯における種多様性の維持、ニッチ説と中立説との整合性といった、群集生態学における中心的な問題についても議論したいと思います。


日 時 | 2012年2月17日(金) 16:00〜
場 所 | 東北大学 北青葉山(理薬)キャンパス 理学部生物棟 1F 大会議室

ポスター




5
小川浩太 さん (北海道大学環境科学院)
アブラムシの適応戦略と表現型多型に関する生理・発生機構

abstract

 生物の表現型は、その個体が持つ遺伝情報と発生の過程で受ける環境要因の相互作用によって決定されると考えられる。環境条件によって不連続な表現型が生じる表現型多型 polyphenism は、多くの分類群で報告されており、発生学的にも生態学的にも興味深い現象である。昆虫には表現型多型を示すものが多いが、中でもアブラムシは生活史の中で環境に応じて様々な表現型を発現する。これまでに演者はエンドウヒゲナガアブラムシ Acyrthosiphon pisum が示す翅多型と繁殖多型に着目し、異なる表現型の発生プロセスを詳細に観察・記載するとともに、環境要因から表現型の改変に至る過程で重要な役割を担う生理学的および発生学的機構の解明に努めてきた。
 本講演では、まず表現型可塑性研究の対象としてのアブラムシの魅力について紹介する。そして、これまでに演者らが明らかにした「繁殖様式に関連した飛翔器官形成プロセスの差異」や「繁殖様式切り替えにおける発生制御機構」、「X染色体放出による雄の発生機構」などについて紹介し、アブラムシの示す発生の可塑性と可塑性が進化に与える影響について議論したい。また、アブラムシの可塑性の進化的背景の解明にむけた今後の展望についても述べたい。


柴尾晴信 さん (東京大学大学院総合文化研究科)
アブラムシにおける社会システムの創発と可塑的応答

abstract

 社会性昆虫のコロニーは生物システムの1つの極致といえるであろう。行動的・形態的・生理的に分化したさまざまな階級を構築する多数の個体が、局地的な環境入力に対して各々反応を示し、その総和が調和的かつ適応的なコロニーレベルの応答として出力される。単純な反応の総体からいかにして高度で複雑なシステムが創発してくるのだろうか? 本講演では、社会性アブラムシをモデル系として、社会性昆虫のコロニー統合と迅速な可塑的応答のメカニズムの解明に取り組んだ研究例を紹介する。遺伝子レベルから集団レベルまでの各生物学的階層をつなぐ現象の理解が、社会性生物における利他的階級の分化や分業の進化的駆動力、維持機構、生理的・行動的実現機構の理解に不可欠であることを指摘したい。


日 時 | 2012年1月13日(金) 14:30〜
場 所 | 東北大学 北青葉山(理薬)キャンパス 理学部生物棟1F 大会議室

ポスター




4
林 亮太 さん(東京大学 大気海洋研究所 国際沿岸海洋研究センター)
カメフジツボの科学:生態学・分類学・系統学から本草学まで

abstract

 『品川の 沖に止まりし せみ鯨 みなみんみんと 飛んでくるなり』(寛政の鯨)
日本初のホエールウォッチングの様子が狂歌で詠まれたように、クジラなどの大型海棲生物は古くから人々の憧れであり興味の対象となってきた。クジラやウミガメといったこれら大型海棲動物の回遊生態は近年では衛星発信器やデータロガーなどを用いたアプローチによって明らかにされてきたが、これらの機材は高価であり、いつでもどこでも誰にでも使えるわけではないという問題がある。そこで、ウミガメ個体の回遊履歴を反映する生きた発信器・データロガーとしてウミガメ類に特有なフジツボ類が使用できるのではないかと考え、カメフジツボ類の研究を開始した。
 本講演では、まず沖縄県宜野座村で捕獲されたアオウミガメ上のカメフジツボ類の分布パターンについて紹介する。本研究ではウミガメ体サイズの大小とは関係なく、フジツボ類付着数の多い個体・少ない個体があることが示された。同一捕獲場所においてフジツボ付着数にばらつきがみられることから、個体ごとの生息環境の違いがフジツボ付着数として現れているのではないか、と考えられた。しかし、当時は演者が大のフジツボ嫌いであったため、その同定が属レベルで種まで落とした議論がされていないという問題があった。
 そこでより正確なデータを得るため、カメフジツボ類の分類学・系統学を研究テーマとして博士課程に進学した。演者が研究対象としているカメフジツボ類は、クジラ類に特有なフジツボ類と同じオニフジツボ超科に分類される。北は岩手県大槌町から南は石垣島、小笠原などの亜熱帯海域に至るまでウミガメが捕獲される全国各地で野外調査を続け、また全国各地に漂着するクジラ類からもフジツボ類を採集した。2002年から現在まで、日本で9属13種のオニフジツボ超科のフジツボを採集することができた。これらの採集した標本を使って、形態の観察・塩基配列による系統解析など、カメフジツボ類の分類学・系統学を進めた。分類学の基本は過去の記載である。原記載まで既存文献をとにかく集め続けた結果、勢い余って原記載を通り越し江戸時代の博物画にまで遡ることとなった。
 本講演では卒論以来続けてきたカメフジツボの生態学から分類学・系統学、そして書誌学から見たウミガメ類・クジラ類の生態学への応用について議論したい。


日 時 | 2011年12月2日(金) 14:00〜
場 所 | 東北大学 北青葉山(理薬)キャンパス 理学合同棟 第3講義室 205

ポスター




3
秋田鉄也 さん (総合研究大学院大学)
繁殖戦略・発現制御機構の進化理論、そして、オミクス時代への展望

abstract

 演者は、フィールド調査/進化生態理論/バイオインフォマティクスを用いて、様々なスケールの生物現象に関する進化を扱ってきた。本発表では、まずブナ科植物の複雑な開花結実動態(豊凶)の進化について紹介する。豊凶の要因については様々な仮説があるが、種間相互作用や外的な要因を考慮せずとも、性比の適応的応答を通じて、開花結実パターンの集団内多型および豊凶が維持されることを理論的に示す。次に、マイクロRNAを介した転写後制御機構の進化について紹介する。マイクロRNAとは、メッセンジャーRNAをターゲットとして転写後制御に関与する約20塩基のノンコーディングRNAである。マイクロRNA遺伝子の重複が機能制御にもたらす影響に着目して、シロイヌナズナのゲノムデータを説明する理論モデルを構築し、その適応的背景に関する新しいメカニズムを提示する。最後に、オミクス(網羅的解析)時代に対応するための進化理論構築についてその展望を述べる。近年、ゲノミクス-トランスクリプトミクスと呼ばれる遺伝子を網羅的に解析する研究が発展している。生態学では、この手法を取り入れて表現型を司る遺伝的基盤を探る研究も始まっている。一方、既存の(進化)生態理論の枠組みでは、遺伝子型と表現型を結ぶ経路を単純化するために、網羅的解析の成果を進化動態理論の俎上にのせる事が困難である。この点について、新しいスキームの構築可能性やその意義も含めて議論したい。


日 時 | 2011年11月4日(金) 15:00〜
場 所 | 東北大学 北青葉山キャンパス 理学部生物棟 1F 大会議室

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小林悟志 さん (国立極地研究所 新領域融合研究センター)
南極の寒波による生態系の現状と大槌町の津波による森林破壊の現状

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 第52次日本南極地域観測隊(JAER52)の夏隊員(2011年3月に帰国)として参加した演者は、生態系変動を担当し、主に南極大陸の露岩帯に赴き、地衣類・蘚類のモニタリング観測、南極湖沼に分布するコケ坊主の調査採取を行った。 本講演では、演者が実際に行った南極の場所を紹介しながら、ペンギンの生態や地衣類・蘚類の現況を踏まえ、問題視されている地球温暖化について、南極の視点で論じたい。
近年、温暖化によって北極の氷山や海氷の面積が減少しているのは知られているが、南極の海氷が近年、増加していることは、あまり知られていない。温暖化とは、実は北半球を中心とする地域的な問題であることを知らなくてはならない。年々海氷が増加する南極では、アデリーペンギンの繁殖が昨年と今年は壊滅状態であった。その理由として、海氷が融ける夏期にペンギン達はオキアミ等のエサを大量に捕獲して雛を育てるが、ここ数年の大寒波で南極の海氷は融けず、オキアミのエサが十分に得られていない。そのため、ペンギンのペアは、卵を産んだものの、途中で育児放棄しているのが南極の現状である。現在の地球は、北半球は温暖化、南半球は大寒波という現実かある。北半球のみの現象にとらわれず、南半球の現状も把握し、地球全体として温暖化を考えていかねば、問題解決の糸口を見つけるのは難しいのではないかと演者は考える。

もう一つの話題として、大槌町の津波による森林災害についても紹介したい。演者が大槌を訪れたのは震災の3ヶ月後であった。Google Earthでは、東北の震災を機に、被災地の詳細な衛星写真が更新されている。画像データは11年4月1日で、震災の約1ヶ月後である。この時期は、コナラなどの落葉樹は葉をつけておらず、常緑樹、落葉樹、そしてタブ、マツ、スギと識別でき、場所によっては個体識別も可能である。この詳細な画像データを見るに、スギ林については、まだ、塩害による立ち枯れは起こっていない。私が訪れた3ヶ月目のスギ林では、潮に浸かったスギは例外なく立ち枯れが起きていた。また、一方で、コナラ等の二次林では、同じように潮に浸かりながらも、立ち枯れることもなく生育していた。さらに、津波の被害は単に標高の問題ではなく、マツ林とコナラ等の二次林では、その被害の大きさも異なっていた。植生に着目することにより、危険地域と非危険地域の判別が可能になるのではないかと私は思索する。今後、詳細な植生調査と津波の影響を照らし合わせてモニタリング調査を行う予定である。


日 時 | 2011年9月10日(土) 16:00〜
場 所 | 東北大学 北青葉山キャンパス 理学部生物棟 1F 大会議室

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森長真一 さん (東大・総合文化)
遺伝子からみた分布と適応:生態学とゲノム学の蜜月

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 生物は、それぞれの分布する環境に適応し、巧みに生きている。しかしながら、生物を取り巻く環境は常に変化しているため、それに合わせて適応し続けなければなければならない。近年のゲノム解析技術の発展は、このような生物の分布と適応の理解に新たな視点をもたらした。すなわち、適応形質を支配する遺伝子-適応遺伝子-から、今まさに生じている分布と適応の変遷を描き出すことを可能にしたのである。本発表では、モデル植物シロイヌナズナに最も近縁な野生植物で明らかとなってきた局所適応と分布拡大・縮小の実際を、適応遺伝子の時空間動態とともに紹介する。さらに、次世代シーケンサーを用いた集団ゲノム解析についても触れながら、生態学とゲノム学の『蜜月』とその終焉について議論したい。


日 時 | 2011年7月12日(火) 16:00〜
場 所 | 東北大学 北青葉山キャンパス 理学部生物棟 1F 大会議室

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